ブログ名変えます

現役医師が暮らしを豊かにする知識やモノを紹介します。医者や医療の実情も時々語ります。

この抗生物質は意味がない? 効かない第3世代セフェム

日々色々な抗生物質を処方し、処方されているのを見て思うこと。

少し専門的になるかもしれませんが、なるべくわかりやすく書きました。

 

実は呼び方にも色々ある

ちなみに一般の方には抗生物質という言葉が馴染みがあると思いますが、私をはじめ医療者は主に抗菌薬と呼んでいます。

厳密には意味が違うんですよね。

''抗生物質''は微生物が産生した他の微生物をやっつける薬

''抗菌薬''は微生物をやっつける薬全般

つまり抗菌薬の方が抽象度が高い言葉なんです(抗菌薬→果物、抗生物質→いちご、みたいな感じ)。

だから合成抗菌薬のクラビット®︎(聞いたことある人も多いかな)を抗生物質と呼ぶのは間違いなんですね。

医学生とか良くわかっていない子もいるので、もし見ていたら気をつけてね。

まあそんなことは今回どうでも良いのです。

 

 

間違った使われ方をしている抗菌薬多すぎ問題

 抗菌薬は素晴らしいお薬であり、私もほとんど毎日使っていますが、残念な使い方をされている例を非常にたくさん見かけます。

よく見る悪い例

・経口(点滴ではなく口から飲むお薬)ではほとんど意味がないお薬を処方している

・とりあえず熱が出ているから抗菌薬を処方する

・風邪なのに抗菌薬を処方する

・培養検査をする前に抗菌薬を投与する

などなど色々あるんですね...

 

経口(点滴ではなく口から飲むお薬)ではほとんど意味がないお薬を処方している

めちゃくちゃたくさん日本で処方されているお薬のフロ○ックスやメイ○クト。

セフカペンピボキシルやセフジトレンピボキシルという一般名(別名みたいなものと思ってください)ですね。

両者ともに日本で大人気のお薬です。

ですが私は一切処方しません。というかきちんとした知識のある医師はまず使いません。

 

 

なぜ使わないのか

これらは第3世代セフェムという分類の抗菌薬なのですが、かなり多くの種類の細菌に効くんです。

肺炎や髄膜炎など色々な病気の治療に第3世代セフェムの点滴薬は使われていますね。

ですがこれ口から飲むと全然効かないんですよ。

bioaveilabirityといって口から飲んだ時の血中に移行する割合が非常に低い。

種類にもよりますが大体10-20%くらいしか血中に行き渡りません。

なので濃度が低すぎて細菌が死にません。

 

じゃあ濃度を高めるためにたくさん飲んだら? 

ー下痢するんですよね。

結局血中にはどれだけ口から摂取してもたくさん入らないので、経口で使う意味が全くない薬になります。

 しかも子供に使うと頻度は多くないですが低血糖を起こすことが知られています。

さらに培養検査といって血液中のばい菌の種類を調べる検査の陽性率が下がります。

この培養検査というのはかなり大切で、開業医さんなどではなかなか全例施行は難しいかもしれませんが、細菌が検出されればどんな抗菌薬が効果があるのかバッチリ分かるんですよ。

 

 

つまり治さない上にどんな薬が効くか判断するための検査も無効にする、そして下痢や小児には低血糖の副作用もあるという最悪の薬です。

 

じゃあなんでそんな薬処方されてるの?

第3世代セフェムは多くの種類の細菌に効くと書きました。

だから口からのめて色んな菌に効くし便利じゃん!といって流行ったんですね。

処方している人はbioaveilabirityが低いことを知らない/そもそもbioaveilabirityという概念自体知らないので、効くと思っている。

製薬会社もこんなにたくさんの種類の菌に効くんですよと説明する(濃度が十分高ければ、の話なんですけどね)。

みんな出しているし余計にみんな処方する。

このループです。

最近は感染症教育が進んできているので、若い医師より年配の方にその傾向が強い印象があります。

 

 

胡散臭い広告で良く見るこの薬は使うな!みたいな煽りは個人的に好きではないのですが、患者さんの不利益が少しでも減るように書かせてもらいました。

最近は感染症内科医により雑誌などのメディアでもこの件は取り上げられたみたいですね。

正しい知識が広まってほしいものです。

 

 

続きは次回。