風邪で抗生物質を飲む必要はありません
前回の続きです。
みなさんに馴染深いと思われる抗生物質という単語で統一して話します。
そもそも抗生物質を使う必要がない場面でも使われているところが散見されるので今回はそのお話。
とりあえず熱があるから抗生物質を出しましょう...?
熱があるから抗生物質だ!という先生がいまだに稀に存在します。
CRPが高いから抗生物質を出そう、というのも似てますね。こっちの方が多いかも。
(CRPとは炎症反応が起きていることを示す血液検査の値です。確かに感染症の時はほとんどの場合に数値が上がりますが、少ししか上がらないこともあるし、上がっているから感染症というものではありません。)
ろくに診察もせず、抗生物質を飲んでおけば治るよ、みたいなノリですね。
そもそも熱が出るのは感染症(ウイルスや細菌で起こる病気)だけではありません。
腫瘍による熱、薬剤性の熱、関節に結晶が溜まって起こる熱、他にもたくさんあります。
当然抗生物質では治りません。
もし感染症であったとしても、抗生物質にも適材適所があるので、効かない抗生物質だと治りません。
感染症だと思った時には、感染源の臓器(肺やら腎臓やら)、患者さんの背景(免疫を抑える薬を飲んでいるとか)、原因となっている菌を考えて抗菌薬を処方するのが基本です。
十分な診察と問診なしで、適切な抗生物質の処方は出来ません。
熱が出ているから、採血で炎症反応が高いから抗菌薬を処方する、なんて医者じゃなくても誰でも出来ますからね。
風邪なので抗生物質を出しておきますね...?
みなさん一度は風邪で病院に行ったことがあると思います。
その時に抗生物質を処方されたことありませんか?
風邪の原因はそもそも...
風邪は医学用語でウイルス性上気道炎と言います。
原因が何かって、名前の通りウイルスです。
先ほども少し触れましたが抗生物質は細菌を殺す薬であって、ウイルスを殺す薬じゃありません。
ウイルスを殺す薬は抗ウイルス薬です。
しかも風邪の原因のウイルスはコロナ、ライノなどなど様々あり、型もたくさんあるため実質それらを殺す薬はありません。
抗生物質では風邪は治りません。
でも飲んだらいつも風邪治るよ?
風邪はほっといても勝手に治ります。
自己免疫で治ります。
抗菌薬を飲んだから治るのではなくて、関係なく勝手に治っているだけです。
抗菌薬は細菌を殺すという効果しかないので、治るのが早くなるわけでもなく、症状が軽くなるわけでもありません。
飲んで変わることといえば、下痢しやすくなるくらいでしょうか。
医者にこれは風邪ですね、と言われて抗菌薬を出されるのは矛盾しているんですね。
もちろん細菌性の肺炎などの細菌性の感染症なら使いますよ。
でもそれならその時は''肺炎なので''抗菌薬を飲んでくださいと言われるはずです。
なんで抗生物質処方されるの?
医者が風邪だと思っているのに抗菌薬を処方するのにはいくつかの理由が考えられます。
1. もし風邪ではなくて細菌性の肺炎などの病気だったら...と思って予防線を張ってしまう
2. 患者さんが抗生物質を求めて来院するので、それに合わせて処方している
3. そもそも抗生物質が効かないことを知らない(これはさすがにいないでしょうか)
これらあたりになるでしょう。
適切な診察と問診で風邪とその他の病気は大体鑑別出来ます。
そして適切な診察をした上で、風邪であれば放っておけば長くて4-5日経てば治りますので、もし治らなければ来てくださいとお伝えすれば良いのです。
治らなかったら来てね、というのは無責任ではないかと感じる方もいるかもしれませんが、症状が風邪として典型的(鼻水、咳、喉の痛みが揃っているなど)で、勝手に治るのがウイルス性上気道炎です。
この勝手に治るというのがポイントで、診察した時点では確定診断は出来ません。
数日経って自然に症状が治まってはじめて、ああやっぱり風邪だったんだなと分かるんですよ。
ちなみに咳は長引くことが多いですのでご注意を。
むやみやたらに抗生物質を処方していると、耐性菌といって抗生物質が効かない菌が増えるんです。
しかもお金も無駄にかかります。
これはかなりの確率で風邪だ、しかも若くて元気のある人だし、もし肺炎でも最悪重症にはなるまい...という状況で抗生物質を出す必要はありませんよね。
抗生物質の出し方だけで医者の能力は測れないとは思いますが、医者としての基本ではありますし、抗生物質はかなり身近な類のお薬です。
きちんとした抗生物質の出し方をしてくれる方に診てもらってくださいね。
次回で抗生物質についてのお話は一旦終了です。